ロシアのラブロフ外相が北方領土の4島ではなく3島、国後、色丹、歯舞を訪れたということ。
これを聞いて私は思い出すことがあった。
06年の麻生外相の発言である。
9月27日、麻生外相は「3島返還もひとつのアイデア」と4島のうち国後、歯舞、色丹3島の返還という妥協案に言及した。これはかなり話題になった。すると、ロシアでも波紋を呼び、各紙がいっせいに掲載した。
調べてみるとイズベスチヤ紙ではプーチン大統領が平和条約締結後の歯舞、色丹2島引渡しを定めた1956年の日ソ共同宣言に基づく決着を過去に提案し、外相の発言はそれへの回答であると分析した。
その後10月10日、鈴木宗男氏が質問主意書を提出、これをただした。
もちろん政府からの答弁書には、これを(3島)事実上否定。4島帰属の問題を解決して平和条約を結ぶと書かれている。これで4島で落ち着いたかのように見えたのだが・・・。
ここから時系列で追っていくと、すべてが段取りを踏んでいるように見えてくる。
正論3月号の斉藤勉氏の「北方4島は泣いている」によると
11月27日朝日新聞の若宮啓文論説主幹がコラムで麻生外相の3島返還論を引きながら、
「プーチン大統領の任期は後一年余りしかない。もし安倍首相が思い切って仕掛けるなら、この一年が勝負どころだろう。・・・。」と述べている。なお、この若宮氏は「大仏次郎論壇賞」の審査員の一人でもあった、という。
12月13日麻生外相は衆議院で前原前代表の質問に答え、北方領土2等分案を発表したのである。まず、前原氏は3島返還論に触れて、3島は全体の36%でしかないと述べた。麻生外相はその点も含めて考えるとし、「中ロの国境画定 」を引き合いに出し、面積の2等分について言及したというわけである。また、麻生氏は、「プーチンが圧倒的な力を持っている。したがって、この人のいる間に話の決着を試みるべき。」とも述べている。
(このことは通底音のように、外務省、マスコミなどの発言に共通して見られる)
この12月13日には時同じくして、「北方領土二等分論」の”発信源”である北海道大学の岩下明裕教授が朝日新聞からその著書「北方領土問題」で「第6回大仏次郎論壇賞」を受賞している。麻生外相が2等分案を発表したその日にである。またこの答弁を各紙が好意を持って迎え、産経のみ4島返還堅持の論陣を張ったという。
先に述べたように若宮啓文氏がこの賞の審査員であったことも想起したい。
国民のなかにもこの3島返還や二等分案に賛同したり流されるものも多くいたようだ。
北方領土問題はいうまでもなく第二次大戦末期に、不可侵条約をソ連が一方的に破り、満州や朝鮮で日本人をシベリアに追い立て、終戦後にもかかわらず、国際法に反して、北方4島を不法占拠したことだ。
このことを私はさらっと流すようにしか学校で習っていない。当時の日本人の北方領土や大陸での苦労や大変さ、
取り戻すべき領土や国への愛着というべきものは恥ずかしながら心にほとんどなかったといっていい。
情けないと思っている。
やはり、教育なのだ。
まるで石油ショックのときのトイレットペーパーを買いに走るときのように、
「今、行かないともうないよ!」と業者にだまされて振り回される。
4島ともに祖先が苦労してはぐくんだ土地なのだ。
60年取り戻そうと戦ってきたその思いがあれば、ぐらつかずにすんだのではないか。
この話は、外務省が絵を描いて、信頼できそうなデータや提案を麻生外相に示したのではないだろうか。
外務省にはまた問題があった。先の斉藤氏によるとあの鈴木宗男氏が2年前に週刊誌に外務省のスキャンダルを暴露したという。ロシアスクールが弱みをクレムリンに握られているというのである。
漁船銃撃やサハリン2の件でも外交陣が何もいえないのはそのせいだというのである。
ここからはわたしの推定だが、もし、彼らがロシアとある程度打ち合わせてこの絵を描き、
根回しをしてアドバルーンを合図にマスコミや学者など一斉に動かしたとしたら。
世論は簡単に分断され、反対論も大きくなって、外交は混乱するに違いない。
まさにこの主張の著者の言われる現在の状況なのではないか。
付け加えると最初の9月27日、麻生外相が初めて3島返還について触れたインタビューでは毎日新聞の記者のほうから唐突に「4島を面積で分割する案はどうですか」と水を向けたというのである。それに答える形で3島返還論が導かれたのである。
まさしく今回のラブロフ外相の3島訪問はシグナルであり、しかも彼らは領土を返す気などない。今後も足元を見ながら日本の外交を内から外から揺さぶっていこうと考えているのではあるまいか。今のロシアはものすごい勢いだ。
これに引き込まれたら大変だ。
プーチンはまだまだ黒幕として大統領を退いても交渉相手のままなのだ。北朝鮮問題で「バスに乗り遅れる!」と騒ぐ人たちがいるように、「プーチンがいる間に!」が外務省ロシアスクールおよび仲間のマスコミのキーワードなのだろう。院政を敷いてプーチンはロシアに君臨するというのに。
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ここまで07年の6月のエントリーで書いたものを、少し修正して再掲したのだが。
今も同じ考えであることは変わりない。
ロシアのシグナルや言辞に惑わされず、しかも注意深くそれらを分析すること。
また、拙速ではいけないが、たゆまず粘り強く交渉することについても。
「ここで私はあの拓殖大学教授木村汎氏の論説(プーチン期の領土解決をあせるな)を思いだす。
あせってはだめ、ジャブを打ち続けよ」
と、私は書いた。
だが、日本の国益を必死に守ろうとする人材が外務省にいるのか、ということが疑問なのだ。果たして彼らの仕事を信頼していいのだろうか。今の状況では返還はもとより、またロシアからのシグナルを読み取り、それに対する対応に怠りがないかということ、もっと言えばロシアとの交渉の中身自体が日本の益になるのか、非常に心配になってくるのである。
福田政権であのロシアを相手に危なげない交渉ができるとはとても思えないからだ。
(追記:08年8月8日)
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